「ナマズ」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。
ナマズは平らな頭に長い口ひげ、つぶらな瞳でやや受け口をした淡水魚です。ヌルヌルとした表皮をもち、川や池などに広く生息しています。日本では昔から、「ナマズが暴れると地震が起こる」という言い伝えがあり、人々の価値観に影響を与えてきました。この考えは、天正地震を坂本城で経験した豊臣秀吉の書状に由来すると伝えられています。ですが、ナマズにまつわる昔話を地域ごとにみていくと、そのイメージには様々な違いがあることがわかります。たとえば、ナマズが通行人を飲み込む“怪物”として恐れられている地域もあれば、溺れた子供を背中に乗せて助ける“救世主”や”守り神”として語られることもあります。
私はこれまで、古書、書籍、論考、市誌、村史、郷土史、手記など、400を超える関係資料を手がかりに、160箇所以上のナマズにまつわる伝承地を訪れました。その中で明らかになったのは、多くの伝承が地震よりも洪水や旱ばつによる雨乞いと深く結びついているということです。また、西日本の地域では、”皮膚病”との結びつきが広く浸透しているように、ナマズのイメージは、地域によって実際には異なる捉え方をされているのです。 皆さんも、子どもの頃に、地震とは関係のないナマズにまつわる昔話を耳にしたことがあるのではないでしょうか。
このホームページでは、全国各地に伝わるナマズにまつわる伝承や文化についてご紹介しています。 具体的には、昔話や絵馬、祭り、兜、要石、信仰、食文化、イメージ、鯰絵(なまずえ)など、様々なテーマを取り上げています。かつて人々は「ナマズ」という存在を通して、何を伝えようとしていたのでしょうか。 あなたの住む地域にも、ナマズにまつわる伝承が残っているかもしれません。ぜひ探してみてください。
ナマズにまつわる伝承地は、北海道、沖縄を除く、5つの地方に分類しています。
⑴ 九州地方(熊本県 福岡県 大分県 佐賀県 長崎県 宮崎県 鹿児島県)
⑵ 中国・四国地方(岡山県 広島県 島根県 鳥取県 山口県・徳島県 香川県 高知県 愛媛県)
⑶ 近畿地方(滋賀県 三重県 京都府 兵庫県 奈良県 和歌山県 大阪府)
⑷ 中部・北陸地方(岐阜県 愛知県 静岡県・富山県 石川県 福井県 長野県)
⑸ 関東地方(東京都 神奈川県 埼玉県 千葉県 栃木県 茨城県 群馬県)
⑹ 東北地方(宮城県 福島県 岩手県 秋田県 青森県 山形県)
鯰絵(なまずえ)のコンテンツも作りました。
鯰絵とは、安政2年に発生した江戸大地震を背景に、当時の世相やナマズを擬人化して描かれた錦絵です。当時江戸では、地震の原因はナマズが地底で暴れることによっておきると考えられていました。鯰絵の特徴は、地震という大惨事をまるで悲壮感のない風刺画として仕上げている点です。それでも、人びとは鯰絵を求めました。 作者不明の版元の捺印や日付も記されていない錦絵が大流行したその理由とはなんでしょうか。この疑問を掘り下げていくと、ナマズのイメージが地震だけではないことに気づかされるのです。
鯰絵は、4つのカテゴリーに分類しています。
⑴ 地震(ナマズ)を押さえる力(要石・瓢箪・剣)
⑵ 災害時の心の拠り所(護符・神馬・サムハラ)
⑶ 自然災害(地震・雷・火事)への恐怖心
⑷ 鯰絵の作者像(浮世絵師)
ナマズにまつわる民俗や鯰絵の世界を通して、人々とナマズの深い関わりをたっぷりとご紹介していきたいと思います。
2024年5月
鯰の民俗文化会 代表 細田博子
「地方別・ナマズ伝承地位置図」は、主に2016年から2018年の期間に行なった調査結果をもとに作成した図です。
しかし、各地で自然災害が発生している昨今、当初訪れた伝承地が失われている事例を見かけ、
これまでの研究を「記録」として残すことの重要性を感じました。
本図は「地震と言えばなぜナマズなのか」という疑問を明確にするため活断層の名前を示していますが、
地震との相関性を裏付けているものではありません。研究を進めていくと、むしろナマズの民俗は、河川との関係性が強いと考えられます。
現在も続けているフィールドワークの結果も、随時更新しております。
本図の使用等はご遠慮くださるようお願い申し上げます。
鯰絵(なまずえ)とは、安政2年(1855年)に江戸で発生した地震時に流行した「地底に住む大鯰が地震を起こす」 という民間信仰に基づき作成された錦絵(にしきえ)です。 浮世絵のジャンルのなかでも美術絵というより、かわ ら版や時事絵としての性格が強く反映されています。鯰絵が誕生した 時期というのは、ペリー来航により政治 や経済が不安定な幕末でした。当時の浮世絵師たちは、天保の改革によって課せられた過度な制約に不満を募らせており、 戯画という手法を用いて時事的な話題を巧みに表現していました。そんな時期に起きた江戸大地震をきっかけに、 突如現れたのが“鯰絵”です。これらの鯰絵は、およそわずか2ヶ月ほどしか流通せず、 作者の名前や版元の印、制作日付も記されていないものがほとんどです。また、これまで鯰絵の作者像や分類については、 様々な研究がなされてきましたが 、作者については未だ解明されていない謎が多く残っています。 このウェブサイトでは、4つのテーマに基づき、ナマズの民俗や独自の鯰絵の様式研究から、鯰絵を掘り下げています。
このページでは、ナマズに関する伝承を募集しています。
「ナマズの昔話を祖父母から聞いたことがある」
「ナマズの妖怪がいるからと近づかない沼があった」
「ナマズ絵馬をみた」
など、子どもの頃に聞いた言い伝えはありませんか?
お寄せいただいた伝承については、実際に現地調査を行い、Facebookページや当サイトに掲載させていただきます。
掲載が決定した方には保温性能に優れたアルミブランケットをお送りいたします。
[注]募集の対象は、当サイトにまだ掲載されていない伝承地にかぎります。
これまでに掲載した伝承地については、「地方別・ナマズ伝承地位置図」にてご確認ください。
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